「ほんとに何」

「あのね、蜜くん。真剣に聞いたほうがいいと思う」

「なに」

「蜜くんの為だよ」

「だからなんなんだよ!」

教室の後ろ半分に寄せて集められた机たち。
机の上には椅子が逆さまに乗せられている。

以前はクラスとして使われていたんだろうか。
俺が入学してからはずっと空き教室としての記憶しかない。

教室の中はひどく冷たい。
申し訳程度に、ブレザーの下に着ているカーディガンの袖を引っ張った。

手がかじかんでいた。

一組の重ねられた机と椅子。
椅子を下ろして、机に腰を預けた。

「蜜くんは人殺しなんかじゃないよね?」

「は?」

「不安なの。騒がれてたあの記者、死んじゃったでしょ…」

「いや…え?なんで知って…」

「あの人、すっごく粘着系じゃん。知ってるよ。うちのパパもよく嗅ぎ回られてうんざりしてた」

来栖の父親はこの国では名が知れ渡っている。
ちょっとした、些細なことが命取りになる。
あの記者が好みそうなターゲットだった。