来栖に背を向けて、目の前にあった空き教室に入った。
ドアを閉めて、カーテンも閉め切ったら、教室のドアの上部にはまっている磨りガラスから入ってくる僅かな明かりしかなくて、
来栖の輪郭をボヤけさせた。

「蜜くん」

密室に連れてこられても来栖は堂々と振る舞った。

トン、と床に置いた俺の鞄を見つめている。
来栖は鞄を持っていなかった。

すぐ済む話なのか。
鞄は教室に置いたままなんだろうか。
時間的に、教室だってもうすぐ施錠されてしまいそうだけど。
いや、見回りの教師だって鞄が残されていたら不思議には思うだろう。
まぁ、部活動生もまだまだ居残ってるしな。
なんで俺、そんなこと気にしてるんだろうな。

そんなくだらないことが次々と脳内に浮かぶくらいには、
来栖はなかなか話題を切り出さなかった。