熱が覚めやらない記者は自分が今どこに立っているのかすらあまり気にしていない様子だった。

佐藤がおもむろに鞄から月謝プラス俺の金を合わせた五万円を取り出した。

遠くからでは佐藤が喋っている声は聞こえない。
けれどおおかた、校長室で証言した内容通りだろうと思う。

俺との待ち合わせは駅前のロータリーだ。
佐藤が差し出した金は、完全に俺とは別件だと思っている。

まさか一日に二度も大金を手にするとは思っていなかった記者は、
軽率に金に手を伸ばした。

その現場はスマホのカメラのズーム機能を使って、俺が撮影した。
ズームにすることで解像度は低くなったけれど、佐藤アマイであることと、記者の顔に見覚えのある者なら特定できる程度には撮影できた。

佐藤は校長室で、「記者は削除したはずの写真をまだ持っていた。お金を渡すからどうか引き下がって欲しいとお願いした」と証言した。

でも記者は写真を佐藤に突きつけてもいないし、
恐らく俺の前で消去した物の他には本当に持ってなどいなかったと思う。

なぜ応接室で、佐藤の証言の録音を聴いた時に、そんな事実はないとあの場で証言しなかったのか。
それは記者にとって、あの時一番重要だったのは淫売の事実があったかどうかだったからだろう。

俺を強請ったことも、佐藤から金を受け取ったことも事実である記者にとって、
そこに関係することからは意識が薄れてしまっていたように思う。

一番大きな物の影で本質は隠れがちになってしまう。
一つ一つ壊すことができていればもう少しマシな結末があったかもしれないのに。

最後まで気付けないのが愚かな人間の結末だ。

佐藤から金を受け取った後に記者はしっかりと駅前のロータリーへと戻ってきた。
校長室でも応接室でも、示談金の話し合いの時も言わなかったけれど、佐藤に渡した三万円の他に、俺もしっかりと金を払っている。

五万円。
合わせて八万円を記者に吸い取られていることになるけれど、
あの時はあんな男の人生でもさすがに八万円よりは高いだろうと、飲み込むことにした。

本当に死んでくれるかどうかまではまだ半信半疑だったけれど。