夜乃とばりと同じように。

被害者であるはずの娘の、心の命は顔も知らない赤の他人の言葉で殺された。

どれだけネットが祭りになろうとも、日常ではただの記者でしかない男の死と、
ネットで騒がれている淫売記者とを警察はわざわざ結びつけない。

一躍有名人となってしまった記者、本来の人間としての命はひっそりと、惜しまれることもなくこの世から消えた。

奥さんからの電話で訃報を受けた佐藤は直接俺の家にやって来た。

日曜日だった。
雨が降っていた。

玄関前で片手に傘を握り締めている佐藤は、ずいぶんと濡れていた。

「入って」

今日も母さんは不在だった。
佐藤を招き入れてもこの家はやっぱり広過ぎる。

「みつ…」

俺の腰に腕を回して、胸に顔を埋めてから、上目遣いで見上げた。

うすいブラウンの瞳と視線が合った。

「密。私、いい子でしたよね?」