「全て…全て事実でかまいません…」

「お前…!」

しゃくり上げるように言った奥さんに記者は詰め寄った。
奥さんはふるふると首を横に振って、懸命に訴えた。

「もう…もう意味ないじゃない…この子に不純行為を迫ったかどうかが事実でも、仮にでっち上げだったとしても。彼を強請ったことも、この子からお金を受け取ったことも事実なんでしょう!?そこに不純行為の事実があろうとなかろうと、あなたの罪が軽くなるわけじゃないわ!もう終わりなのよ全部…終わりよ…!!!」

反論する気力なんて残っているはずがない。
空気の抜けた浮き輪のように萎んで、ぐったりとソファに沈み込んでいきそうな記者に校長が低く、冷たい声を投げかけた。

「こちらとしてはどのように対処させていただければ良いのでしょうか」

「対処…って…」

「事実を警察にお話して、あなたのことはもう警察に任せれば良いのか、それともそちらのご都合がおありですか?」

「校長先生!慈悲なんて与えないでください!娘がどれだけ傷ついたか…これからだって苦しみ続けるんですよ!?こんな奴を野放しにしても必ず繰り返します!傷をつけられる子どもを増やすんですか!?」

「お母様のおっしゃる通りです。我々としてもこのまま、というわけには…」

「お願いします…どうかお願いします!!!」

ソファから腰を上げた奥さんがそのまま床に土下座をした。
額を擦り付けて懇願する。

「お願いします…娘がおります…アマイさんと同じ年頃の娘です…。娘の存在がありながら主人が犯した罪は人間の所業ではありません。わたくしが申し上げていることもそうです。同じように娘が居るのならお母様のお気持ちを一番に理解しなければいけないのは私なのに…。もしも主人が警察に捕まってしまったら…この件を娘が知ることとなったら…そう思うと………本当に最低なお願いをしていることは重々承知しております。どうか………」

「金、ですか」

俺の声に、佐藤のお母さんの表情からサッと血の気が引いていくのが見て取れた。