「これは…?」

校長の訝しそうな声。
流れる音声を聞き逃してしまわないように一旦停止ボタンで音声を止めた。

「二度目に校門前で声をかけられた時の音声ですよ。あなたと俺の、ね」

記者は反論しない。
否定したところで、多少録音の音声は鮮明さを無くしてくぐもっているけれど、奥さんなら特に本人の声だということは明らかだろう。

「そんなもの…」

「あなたに声をかけられた時、スマホを触ってたの、気づいてませんでした?触ってたついでに録音してたんですよ。役に立ってよかったです」

「貴様…っ!」

「あっはは…そんな侍みたいなセリフ言う現代人、本当に存在するんですね」

「人をおちょくるのもいい加減にっ…」

「あなたは音声を消してくれたけど、俺は狡猾だから消しませんでした。あなたのような人間はまたいつ何をしでかしてくるか分りませんからね」

「朝之くん。とにかく一度聴かせてくれないか」

「あぁ。すみません。どうぞ」

再生ボタンを押す。

再び俺達の声が応接室に充満していった。