今までジッと話し合いに耳を傾けていた佐藤の母親も、見て分かるくらいに記者以上に体を震わせて、怒りで拳をギュッと握り締めている。

「なんてことしてくれたのよっ…この悪魔!!!娘がどれだけ恐ろしかったか…どれだけ尊厳を踏みにじられたかあんた達に分かるの!?」

身を乗り出して佐藤を抱き締める母親。
その腕の中で啜り泣く娘。
クラス担任が二人の背中を必死でさすっている。

「妄言だ!嘘ばっかりじゃないか!俺がこの女をラブホに連れ込もうとした証拠を出せって言ってんだよ!」

「ありません…」

ヒック、ヒックと喉を震わせながら佐藤が声を絞り出した。

「ほら、見ろ。証拠なんて無いのに恐ろしい女だよ…悪魔はどっちだよっ!?」

「あるわけないじゃないですか!!!後をつけられて、いきなり声をかけられて…本当に怖かったんですよ!?もしもの時の為に、こんな風に証拠を残そうなんて冷静に考えられるわけないじゃないですか!」

「それにこの写真は覆しようがないですよね?はっきりと写っています。ラブホテルの前で、あなたと佐藤さんが。金銭の授受も事実ですよね」

クラス担任が応戦した。

「それは…」

記者の威勢が途端に萎み、奥さんと母親の嗚咽はボリュームを増した。

「残念ながら、その時は佐藤のそばには居てあげられなかったので、ラブホ云々の証拠は無いですけど…」

言いながらポケットから取り出したスマホを操作した。

スマホのボイスレコーダーの再生ボタンを押す。

俺と記者の声が流れ出した。