「彼とは何を話したのか聞いてもいいかな?」

「不審がられないように自己紹介はきちんとしました。生徒会長をやっていて、夜乃さんのことも知っている、と。それから佐藤さんが心配してるよって伝えました。二人とも俺にとって大事な仲間ですから。お節介だけど放っておけなくて、怖がらせるようなことしてごめんって。彼は喜んでくれてました。″アマイのほうこそ一人で不安だろうに自分が弱ってるなんて情けないな″って、苦しそうな笑顔を見せていました。でも佐藤さんが頑張ってるから、自分も信じて夜乃さんの帰りを待ってるって。なのに…あんなことになってしまって」

隣から佐藤が鼻をすする音が聞こえる。
クラス担任も辛そうに顔を歪めている。

「それが…何か困ったことになったってことかな?」

「そうですね、結果的には。俺と幼馴染の彼が会っているところをこの記者に撮られてました。この人、俺の後も付け回していたみたいですね。全く気づけていなかったことが情けないですよ。俺としては別に誰と会っていようとやましいことなんてもちろんありません。でも世間は違うみたいです。二度目に校門で捕まった時、この写真を理由に強請(ゆす)られました」

「強請られた?」

クラス担任が声をひそめて呟いた。

「夜乃さんの失踪が解決しないまま起こってしまった彼の死。夜乃さんが酷い人間だとして世間からあらぬバッシングを受けている中で、その全てと関わりを持っている生徒会長。これはバッシングを過激化させる燃料にしかならないよって。俺にも″立場″があるだろうから、この写真が世に出回る前に買わないか、ということでした」

記者から受け取った写真はグシャグシャに丸めて、ブレザーのポケットに突っ込んだままだった。
丸められた写真は広げてみても無数の線が入っていて、まるでリストカットのように見えた。

写真をテーブルの中央に置く。
俺と幼馴染の彼が向かい合っているだけの、なんの面白みも無い写真だ。

校長が手に取って眺めて、再びテーブルに戻した。