「本当は隠していたかったんですけどね。まさかこんな事態を招くとも思っていなかったので。でも大切な生徒を巻き込んでしまった。だから正直に話します」

クラス担任が静かに息を吐き出す音が聞こえた。
顧問は冷え切った鉄のような目でただジッと俺を捉えている。

「朝之くん。ぜひ聞かせて欲しい」

「はい。俺は二度、この記者に校門前で呼び止められました。一度目は夜乃とばりさんのことで。夏休みに入る直前でした。あの時は今よりももっと報道陣が学園に押し寄せていましたよね」

「あぁ。我々もずいぶんと手を焼いたものだ」

「最初の目的はただの話題性、みたいでした。世間を騒がせている女子高生失踪事件。その学園の生徒のトップとして在籍している俺の言葉が欲しいと、エンタメ感覚で近づいてきた感じでしたね。生徒会長が誰なのか、どういう人物かを他の生徒にも聞き込みしていたみたいですよ。より明らかに俺を特定する為に、生徒に″お小遣い″として金を渡して俺の写真を提供させていました。取材の謝礼、みたいなもんですかね」

「酷い…。なんて最低なの」

「俺も佐藤さんと同じです。夜乃さんについては何も語らない。話すことなんてないと拒否しました。ついでに母の職業も盾にしました。弁護士なんですよ。どうしても話がしたいなら個人情報漏洩なども踏まえて母が同席してもいいなら話しましょうと提案したら、その時はあっさりと引き下がりました」

「しかし、その後この記者は夜乃さんよりも君へとターゲットを移したということだね?」

「佐藤さんが感じたままだと思います。予想していたよりも夜乃さんの件が世間で騒がれてしまった。在籍していた学園で、夜乃さんの生活の中心にいたのが俺達だとするとネタにしないわけにはいかないのでしょう。あちらもお仕事ですから」

「何を気取って…。朝之、お前忘れたわけじゃないよな?生徒定例会の日、俺が夜乃のことを議題に挙げた時。″大事な生徒は自分が守る″と大口叩いたこと。それがなんだ?事件をもっと肥大化させてるのはお前なんだよ!」

「そうですね、先生。おっしゃる通りです。夜乃さん以外の生徒にまで被害が及ぶことになって恥ずかしいですよ」

ゆっくりと言った俺に、話を合わせてやったのに顧問は嫌な顔をした。
反論しても同調しても気に食わない。難しい人間だ。