「きみは何か…朝之くんに私怨でもあるのかね?…話し合うべきこととはズレでしまうから今は聞き流そう。しかし発言には気をつけるべきだ。指導者であり、自立した大人だという自覚があるならね」

低く、威厳のある校長の声色に、顧問もさすがに押し黙った。
クラス担任は変わらず嫌悪の眼差しで顧問を睨み続けている。

「すまないね。それで、きみはなんて言ったのかな?」

「私は、先輩のことで話せることなんてないって言いました。正直、私にだって朝之先輩が嗅ぎ回られている理由…ちょっとくらいは分かってます。悔しいけど、さっき先生が言ったことも原因だと思います…。夜乃さんのことがあったし、夜乃さんが生徒会役員で、朝乃先輩とも繋がりがあって、夜乃さんは、私の親友でもあります。その中で私と先輩が仲良くしてるってなったらこっちからマスコミに餌を与えてるみたいですよね。でも疑われるようなことは何もないって言いました。当然です!だって本当になんにもないんです!本当です!」

「佐藤さん。大丈夫よ。信じてるわ」

「俺もこの男性…記者には粘着されていました。学園の校門前で何度か捕まったこともあります。それに、実はね。俺自身が脅されていたんですよ」

「脅された?」

校長が父親のような目で俺を見据えている。

忘れかけていたことがふっと目の前をかすめていったような感覚がした。

もうない、父親の存在。
俺を否定なんかしない。
変わってしまった俺の話を、ただ信じて耳を傾ける存在。

俺にはもうないから、心から話なんかできないから、
世界なんてどうでもいいと思っていた。

変わってしまったのは俺だけだったのかもしれない。