「脅されたんです…」

佐藤は元々、鈴の鳴るような声色で、心地良さを感じさせるタイプの声質だった。

そんな声で囁く、とも違う。
消え入りそうに、若干の震えが含む調子で言われたら一溜りもない。
それは誰がどう聞いても、儚い少女の悲痛な叫びだった。

佐藤の傍らに控えていた担任教師がいよいよ佐藤の肩を抱いて「佐藤さん…」といたたまれない声を出した。

「脅された、とは一体どういう…。説明してくれるかな?」

校長にコクンと頷いて、佐藤は小さく静かに息を吸った。

「帰りに…繁華街で声をかけられました。駅前のロータリーのところです」

「無差別ってことか?」

生徒会顧問の口調は佐藤を責め立てているように聴こえる。
実際、萎縮してしまった佐藤は、大型犬に睨まれた子猫のように背中を丸くした。

「いえ、あの…私を特定して…って感じでした。″佐藤アマイさん″って、はっきりと名前を呼ばれました」

「きみは普段から電車通学なの?」

顧問と違って校長の口調はやわらかい。
佐藤も安心したように頷いている。

「はい。普段からその駅を使っていることを知っているみたいでした。たぶん、学園を出たところから後をつけられていたんだと思います」

「ひどい…。女の子になんてことを…」

担任教師は佐藤の背中をさすりながら嘆いた。