「去年に比べれば気温が下がるのが早いですね」

週明けの月曜日。

校門前で男性に声を掛けられた。
夜乃の事件を執拗に追っている、あの記者だ。

母の職業を引き合いにしてちょっと脅してやったのにまた性懲りもなく。

学園の前に張り込んでも大した収穫は無いと諦めたのか、
記者や報道陣が押し寄せることはほとんど無くなっていた。

それでもこいつみたいに粘着系の記者が数人は残っていて、
教師達も気が抜けない日々が続いていた。

「お久しぶりですね」

「憶えてくださっていたんですかぁ。光栄です」

「記憶力はいいほうなんです。嫌悪感に関しては特に、ね」

「ははは。相変わらずですね」

「尊敬もしてますよ」

「尊敬?」

「ご家族やご自身の生活を守る為なら他者をどれだけ蹴落としても平気でいなきゃ生きていけませんもんね?社会人の鑑です」

「きみは本当に、学生らしい可愛らしさが無くて同情するよ」

「ありがとうございます」

嫌悪感を隠そうともしない顔で記者は空を仰いだ。
そんなに不快なくせにわざわざ接触してくるなんて、働くとは苦痛なことばかりだな、なんて思ってしまう。

「今日はね、朝之蜜くん。きみと交渉をしに来たんだよ」

「こちらにはなんのメリットも無さそうで億劫ですね」

「話くらいは聞くべきじゃないかな?人としてのマナーだ」

「人の写真を勝手に入手したり未成年に見境なしに声を掛けて留まらせるあなたの口から″マナー″って言葉が聞けるなんて。感慨深いです」

隠すつもりのないしっかりとした舌打ちをして、記者は一枚の写真を差し出した。