喧騒の外で、3人の小学生が走っていくのが見えた。
 前を駆けるふたりの少年と、その足音を懸命に追うひとりの少女。少年たちは時折心配そうに少女を振り返る。
 それはいつかの自分たちと重なって、淡く、溶けていく。日芽もそれを見つめていた。

 俺たちはもう、元の形には戻れない。懐かしく大切に思い出せる日が来るといいとも思わない。
 ただ、この痛みを背負って俺たちは大人になる。

「日芽」

 名前を呼ぶ。日芽の涙に濡れた睫毛が揺れる。

「それでも、特別だった」

 日芽はもう何も言わなかった。
 堪えるように小さな唇を引き結び、ゆっくりと俯く。小さな顔を覆う髪のヴェールの隙間から、何度も何度も、光を映した雫が落ちた。
 俺はそれを拭うことができずに、ずっとその光を見つめていた。