「……律はひどいね」
「嘘つき。思ってない」
「思ってるよ。律はひどいし、優しい」
卒業式が終わった後、律が言った言葉を俺は繰り返し思い出す。寂しそうな顔で、“ひぃをよろしく”と。
その声が、表情が、焼き付いたように目蓋の裏から離れない。それはまるで、日芽ではなく自分にかけられた呪いのようだった。
律はいつか日芽が捨てた“ひぃ”というその呼び方を、日芽の代わりに拾い上げた。
俺が呼べなかった名前をいとも簡単に呼ぶくせに、ただひとり日芽の想いを独り占めできたくせに、日芽をよろしくなんて離れていく律が許せなかった。ひどいと思った。
けれど、誰よりも三人でいることが好きだった律が紡いだその言葉は、誰よりも俺と日芽に優しかった。
律が付けた日芽の傷が癒えるまで、もう二度と日芽と会わない。日芽を託した俺にも、会わない。
そう律は決めたのだ。綺麗な髪も、丁寧に整えられた爪も、全て自分のために用意されたものだと知りながら。
「嘘つき。思ってない」
「思ってるよ。律はひどいし、優しい」
卒業式が終わった後、律が言った言葉を俺は繰り返し思い出す。寂しそうな顔で、“ひぃをよろしく”と。
その声が、表情が、焼き付いたように目蓋の裏から離れない。それはまるで、日芽ではなく自分にかけられた呪いのようだった。
律はいつか日芽が捨てた“ひぃ”というその呼び方を、日芽の代わりに拾い上げた。
俺が呼べなかった名前をいとも簡単に呼ぶくせに、ただひとり日芽の想いを独り占めできたくせに、日芽をよろしくなんて離れていく律が許せなかった。ひどいと思った。
けれど、誰よりも三人でいることが好きだった律が紡いだその言葉は、誰よりも俺と日芽に優しかった。
律が付けた日芽の傷が癒えるまで、もう二度と日芽と会わない。日芽を託した俺にも、会わない。
そう律は決めたのだ。綺麗な髪も、丁寧に整えられた爪も、全て自分のために用意されたものだと知りながら。