昂枝は身体を離すと、今度は私の両手を彼の手で握り締めた。
 言葉を失う私に苦笑する。
「…おかしい、よな。俺なんかがお前を……。“宮守の決まり”を無視して恋――だなんて。俺はお前の“味方ではない”というのに。……それでも、俺はお前が好きだ。例え、これから宮守を裏切ることになるとしても」
 まっすぐに、真剣に目を合わせて言われても尚、私はどう返事をするべきかわからなかった。
 また、自分の知らないところで何か起こっている。無知な自分が憎い。告白もそうだが、隠し事をされていて味方ではなかった現実に目が眩んだ。
「……っごめんなさい」
 一刻を争うはずなのに、自分で聞いた事なのに、私は整理する時間を求めてしまった。
 いくら昂枝本人が裏切ったとしても、おじさんとおばさんは間違いなく敵ということになる。
 皆して私に何を隠しているの…?
 それに、昂枝が私の事を好き…?
 彼は幼馴染で、優しい兄のような存在だ。私自身恋とは無縁で―――。
「っ……う、ぅぁ…」
 ぽたぽたと涙が溢れた。蹲る私を、昂枝はいつものように背中を摩ってくれる。
「気づけ…なくて、ごめんなさい……でも…、っ私……」
「まだ何も言わなくていい――結果はわかっている。…だが、俺もあの狐と同じようにお前を守りたいんだよ……。お前を鬼族へは渡さない。絶対にあいつの元へ連れて行くと誓う」
 昂枝は指で私の頬に伝う涙を拭うと、もう一度抱き締める。
「ただでさえ混乱している中で、申し訳なかった。――早くここから脱出しよう」
 ぽん、と私の背中を軽く叩くと、蔵の扉と窓を交互に見つめた。
「…でも、どう……逃げる…?」
「今は外から物音はしないが…親父達はこの道数十年極めた専門家だ。少しでも異変があれば黙っていないだろうし」
「………上の方、小さな窓はあるけれど……」
「そう、だな……」
 私達は考える。
 大体、蔵は物を置いておく場所だ。窓があれど小さく、日光を入れる為ものでもない。だけど、蔵の扉は閂で塞がれている。出られる場所といえば、もうそれしかない。
 重厚感のあるそれは、まさに罪人を閉じ込めておくに相応しく感じた。