『―――あっはははは! お前も相当な馬鹿だな! 目の前に妖二匹いて見逃せって? そんな事出来るわけがないだろう』
 海萊さんはそう笑うと、こちらへ来てしゃがみ込んだ。そして私の顎を強く掴む。
『ぅっ』
『コイツらは“貴重な材料”なんだぞ。まぁ…哀れな花嫁さんにはわからないだろうけどな』
『……何が言いたいんですか』
 私の腕の中で眠る深守をちらり、と海萊さんは一瞥する。私は海萊さんと一歩後ろにいる海祢さんを交互に睨むが、それ以上何も話すことはなかった。話すことを、許されなかった。

 馬鹿――か。この村ではそうなのかもしれない。妖の存在は見つけ次第消し去るべき、そう言われ続けているのだから。それでも尚、此処を離れない深守達のような妖は、見つからないよう日々潜み耐えている。
 もしかしたら出られないのかもしれないというのも、一度考えたことがあった。
 妖にも妖の理由があり此処で暮らしているはずだ。そもそも、人間が移り住まなければ妖達は快適に過ごせたはずなのに。
 そんな自分勝手な人間に迷惑を一切かけず、ひっそりと生きている彼らを手助けする事さえ、罪に問われる方こそ間違っていると私は思う。勿論、悪さをする妖もいるかもしれない。だけど、それは人間だって同じ。彼らから見たら、妖葬班は悪だから。
(二人だけじゃない、妖みんなを助けたい…)
 妖葬班の狙いを考える。
 海萊さんの言う材料とは、一体妖の何を指しているのだろうか。
「……………」
「……………」
 相談したい。けれど、そもそも、宮守家がよくわからない。どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのか。
(昂枝は…?)
 私は今一度、昂枝の方に視線を向ける。
 やはり真剣な顔をして、考えている素振りを見せていた。
(このままではだめ…よ)
 昂枝のことは大切な幼馴染で家族だし、信頼もしている。感謝をしてもしきれないほどに。いつも私達に親切で、妖葬班と相対した時もこちら側で。
 だけど、もう、わからない。宮守家として、どうこの案件に関わっているのか、昂枝は無関係なのか。その不安を打ち消したい。打ち消さなければならない。
 私は重い腰を上げると、勇気を振り絞り昂枝の元へと足を動かした。