「―――!」
 班員は無言で昂枝の首元に弾いた短刀を突きつけた。触れるか触れないかの瀬戸際にある刃のせいで昂枝は動けなくなってしまう。
「観念してください」
 妖葬班の少年は言った。年端も行かぬ年齢の班員に制圧されてしまい、くそ、と昂枝は吐き捨てる。
「あぁっ…もう、どうしたら…!」
 想埜も包丁を手に取り応戦するも、彼は戦い方を一切知らない。その場しのぎで振り回す。
「―――結望さん」
「………っ来ないで!」
 涙で視界がぼやける私の目の前に海祢さんが膝を折った。
「……すみません」
 彼は小さく謝る。妖葬班の他の班員とは違いどこか悲しげな表情を見せながら、私の頬に手を近づける。
「いやっ…」
 避けようとするも叶わず、海祢さんの手のひらにそっと触れた。
 そして、そっと指で私の涙を掬いながら「妖狐の彼を、渡して下さい」と苦しそうに呟いた。
「……お引き取り下さい」
 そんなの、誰がはいどうぞ。と言うものか。私は眠る深守を強く強く抱き締めると睨みつけた。
 こんな状態の深守が妖葬班に連れてかれてしまったら、もう一生帰って来ない。早く出来る限りのことをしなくてはならないというのに、どうして私には力がないのだろう。
 海祢さんの優しさも恐怖に感じた。
「深守は、渡しません…絶対に、絶対に渡しません」
 昂枝と想埜を見る。想埜も程なくして押さえつけられてしまっていた。
 もう、逃げ場はない。
「結望…っ」
 昂枝は何をしでかそうとするのか、と拘束されながらも私の方を見る。
 私は深呼吸をした。これが通用するのかはわからない。
 だけど、もう、これしか方法が思いつかない。
 真っ直ぐに海祢さんの方を注視する。
 そして私は言った。

「―――全部、全部私が責任を取るから…三人の命だけは助けて下さい」