「……ふふっ。いいわね、この並び…」
「…はぁ?」
「……??」
「…ちょいと脱線しちゃったわ。ささ、本題に戻りましょ? 今のはおしまいよ」
 深守はそれ以上語ろうとせず、両手をパチンと鳴らした。
「明日、またあの子ん家行くんだろう? その時次第でアタシを呼びなさい。…きっと彼なら受け入れてくれるわよ」
「お前…まさか想埜のことも知って…?」
「えぇ、勿論。彼もいい子よね。アタシ、結望の周りの子達がいい子に恵まれてて嬉しいわ」
 扇子を広げながら深守は言った。
「お言葉に…甘えてもよろしいでしょうか…」
「全然いいのよ。…あと結望? 出会って初日の時に敬語はなしって言ったのにずっと敬語よ? アタシに対しても色男達のように崩した喋り方をしておくれよ」
「えっ…! あ、そういえば…そんなこともありました……。善処します…する…わ、深守……?」
「………………」
「えぇっ、深守…あれ…っ私、駄目だったかしら…。あぁ…どうしましょう…」
 私は固まってしまった深守を見ながらあたふたとする。昂枝はポンっと私の肩に手を載せると、
「…結望、変態狐の顔をよく見てみろ。………幸せそうだ」
 と如何わしげな表情で言ってみせた。
 私はなるほど…と呟く。
「誰が変態狐よ!」

 ―――と、そんなこんなで無事に深守の許可を得た今回の件。
 想埜は困惑しながらも、ゆっくりと深守を見据え呟いた。
「………あ、…えっと……はじめまして…」
「……はじめまして、深守よ」
 二人揃ってお辞儀をする。よく見たら深守も少しぎこちのない動きをしていた。
「……想埜、あの…ね?」
「………大丈夫。誰にも言わないよ。特に二人には、絶対」
 想埜は一度深呼吸をすると、私の言おうと思った言葉を読み取ったのか、強く言い切った。
「あ、そうだ…。出会ってすぐなんですけど、深守さん…。あの…、後で二人きりになれませんか…?」
「…? いいけど…」
「あ、もしあれだったら…今からでも私達席外しますから。昂枝、行こ…?」
「ん? あぁ…」
 私たちはそう言うとすぐに戸口を出て行った。想埜の事はわからないけれど、きっと、とても大切な話をしたかったんだと思ったから。それならできるだけ早い方がいい。
「―――二人で話すって…何を話すんだか知らないが、無事に事が運びそうでよかったな。結望」
「……うん。ありがとう」
 私は隣にいる昂枝に微笑みかけると、昂枝は「別に俺は何も…」と視線を他所へとやった。
 ――その後、思っていた以上に気が合ったのか、とても仲良さそうな二人が戸口から現れて、辺りを散歩していた私達が驚くまでもう少しのこと。