腕を伸ばすと、縋るように呟く。
「しんじゅ…」
 昂枝は心配そうにこちらを見ている。
 よく考えたら、昂枝にもこんな風に甘えた事がなかった。私は心のどこかで、頑張らなくてはいけない…耐えなくてはいけない…。そう感じていたから。
 だけど不思議と、深守の前ではそれがない。
 安心…しているのかもしれない。だって、深守は神様だから―――。
「……結望は本当にいい子だねェ…。こんなにも素直で、優しい子に育ててくれたおばさん達には感謝しなくちゃいけないね」
「お前…」
「アタシはね、嬉しかったんだよ。きっと、…誰も傷つけない為に悩んで、一番話慣れてる昂枝に相談したんだろう? 昂枝は誰よりも結望に優しいから…。結望も成長しようと頑張ってて、それを無下に出来なくて……ごめんなさいね。…それから、少し席を外していたのはホント。最初からアタシも一緒に考えればよかった。その分も謝罪させて頂戴」
「…あ、私……」
 何も悪い事などしていない深守を謝らせてしまった。
「結望は何も、悪くないからね」
 深守は昂枝には聞こえないくらい小さく「ずっと大好きよ」と呟くと、
「……んふふ。色男も来なさいな」
 と、手招きをした。
「…は? どうして俺が――うわっ!」
「ふふふっ」
 深守は昂枝に有無を言わさず手首を引っ張ると、思いもよらず三人で団子になってしまう。
「いい子いい子、アンタもとっても良い奴に育ったわね昂枝」
「…はぁぁ?? なんでまた…そんな急に……。大体俺のこと」
「知ってる。知ってるわよ。アタシのことなんだと思ってるの? 結望のこと、昂枝のこと、ずっと見てきたんだからね」
 深守は私達を離さないと言わんばかりの強さで抱き締めながら、頭を大きく撫でる。
 昂枝はわけがわからないと言いながらも、そのまま深守を受け入れた。それだけの優しさが彼にはあった。
 例えるならそう、家族のような、そんなぬくもり。
「ずっと…アンタ達を見守ってるからね」
「………」
 深守の言葉は説得力がある。そう、感じた。
「……………」
 沈黙。
 ギューッという擬音がこれ程まで似合う抱擁はなかなかない。
 深守はいろんなことを抜きにして、出会った中で一番嬉しそうにしているのが伝わった。
「……おい、いつまで抱き締めてるつもりだ!」
 …だが、ここに限界を迎えている人が一人。
「おや、やっぱり耐えられなかったかい」
 昂枝は顔を真っ赤にしながら深守の腕を掴むと、無理矢理引き剥がした。きっと両親からも抱き締めてもらう…なんてこと、あまりなかったのだろう。慣れないことをされてむず痒くなった頭を勢いよく掻いた。
 観念した深守もそれに従いそっと私達から距離をとる。