――その後、私達は部屋へ戻ってきていた。
「初めまして結望様、貴女様の事は伺っております。私、身の回りのお手伝いをさせて頂きます黄豊(きほう)と申します」
 空砂さんに先程侍女を寄越すと言われたが、きっと彼女の事だろう。
 黄豊さんは丁寧に座礼をする。私も、彼女に合わせて頭を下げた。
「ていうか空砂様ったら、花嫁様に鎖を付けるだなんてなんて失礼な事してるのかしら。可哀想じゃない」
 黄豊さんは少々膨れっ面をしながら懐から取り出した鍵で鎖を外す。カチャンッと下に落ちた鎖を見ながら、私は軽くなった手首を摩った。
「婚礼の儀は午後執り行われます。支度して移動しましょう。結望様程の美しさでしたら化粧も映えるでしょう」
 黄豊さんは嬉しそうに、私の顔の前へずいっと化粧箱を差し出した。「ふふふ、可愛い子のお化粧が一番楽しいのよね」
 恥ずかしいと言っている間もなくなすがまま寝間着を脱がされると、白無垢に着替えさせられる。着付けは自分でも出来るけれど、黄豊さんの手によってあれよあれよと完成してしまった。
(あぁ、着替え終わってしまったわ……)
 思ってた以上に時間がないことに気がついて額に汗が滲む。それに気づいた黄豊さんが手拭いで優しく拭き取ってくれる。
「あ…あの、婚礼の儀は…夫となる方は、どういう方なのですか?」
「長は…羅刹(らせつ)様は我々鬼族の王です。私達にとって羅刹様は絶対、神様の様なお方です」
 私に化粧を施しながら黄豊さんは言った。「羅刹様とご結婚される結望様は素晴らしいんですよ。だって選ばれたのですから」
 彼女の言葉がどこからどこまで本気なのかわからないけれど、折成さんと同等、もしくはそれ以上長く生きていそうな黄豊さんが事情を知らないはずがない。何より花嫁とやり取りをする立場なら、尚更だ。
「そう……なんですね。私も気を引き締めて参らねばなりませんね」
「えぇ、羅刹様と並ぶんですもの」黄豊さんは微笑んだ――。