その男は、こう言った。



『それをするってことは、人としての一線を越えるってことだ。それを越えれば、お前の両手は血だらけだ』

『っ……!! ぐっ……』



そう言いながら、僕の腹に強烈な蹴りを入れた。



『一目見たときにわかった。お前は、汚れる前の人間だ。俺についてこい』

『は……?』



そいつの目はまるで……新月の闇のようだった。



『大事な人を殺されたお前ならわかるだろ。力は、人を傷つけるものにもなれば救う手立てになる』

『何が、言いたい……ッ!』



僕は、思いっきり拳を向けた。


普通の奴なら、避けられない速度だったはずなのに。



『ッ、ガハッ……!!』



いつの間にか、僕は地面に転がっていた。


こいつ、強い。


そう判断するのに、もう時間なんていらなかった。