体育が終わるとすぐに保健室まで走った。次は給食だからちょっとくらい遅れてもいいし。

「穂月大丈夫!!?」

勢い余って引き戸を引いたからバンッて大きな音が鳴るくらい豪快にドアが開いた。

「朝見さん、ここは保健室ですよもう少し静かに」

(ともえ)先生すみません!穂月手は!?大丈夫だった!?」

丸椅子に座った穂月は保健の巴先生の手当を受けて、右の人差し指と中指にぐるんぐるんに包帯が巻かれて…

うわー痛々しい。
細くて白くて指さえも華奢なんだよね、穂月は。

「痛い?」

「あぁ、大したことは…痛ッ!触ったら痛いに決まってるだろ!!」

「あ、ごめんつい気になって」

たまにしか参加しない体育でケガとか、ツイてないというかなんというか…

「運動不足からの突き指ね」

それは本当巴先生の言う通りだった。

黒縁メガネにモコモコした髪の毛を1つに結んだ巴先生はたぶんまだ20代…ギリギリくらい、だから話しやすくてつい居座りがちになっちゃう。

「太陽の下にはいられなくても、もう少しは運動した方がいいわ」

「そーなの、巴先生もっと言ってやってよ~!」

「でも少し顔色良くないね、少し休んでいく?」 

「え、穂月体調よくないの!?」

「…朝見さんはいつでも元気ね」

まぁこんな感じで巴先生とは仲がいい。
よく穂月が保健室にいるってこともあるけど。

「いえ…、今日は大丈夫です」

穂月がゆっくり立ち上がる、確かにあんまり顔色よくないような…久しぶりの体育だったし疲れちゃったのかな。

「そう?じゃあまた何かあったらいつでも保健室来てね」

「…はい」

ぺこりと頭を下げて保健室から出て行く穂月のあとをついて一緒に廊下に出た。

あんまり元気そうじゃなくて心配なんだけど大丈夫かな…

「穂月ほんとにいいの?休んでかなくて大丈夫?」

「あぁ、別に」

保健室は下駄箱のある玄関の隣にあって、それはつまりここから教室までは階段を上って3階まで行かなきゃいけない。

…穂月大丈夫かな?

「あ、ねぇケガは!?」

「全然、もう治ったし」

スタスタと歩きながらスルッと巻いてもらった包帯を外した。

「!?」

わかりやすく2度見しちゃった。だって傷ひとつない細くて白い華奢な指が現れたから。

え、突き指って…っ

「なんで…!?」

思わず食い付くように指を握った。

“触ったら痛いに決まってるだろ!!”

「……。」

え…

本当に何ともない。

熱くもないし腫れてもない、本当に治ってる…?

「最初から大したことないんだよ」

あたしを見てくすっと笑った。

スッとあたしの手から離れて行ってかすかに微笑み階段を上がって行く。


やっぱり魔女だ。


自分のケガをも簡単に治せちゃうなんて、やっぱり魔女だ…!