「緋呂、紅茶でいい?」

「うん、ありがとう!」

棚からカップとソーサーを出してくれて、スッキリする香りの紅茶を注いでくれた。

「穂月は…コーヒー?」

「あぁ」

自分のカップにはコーヒーを淹れていた。


コーヒー、コーヒー…ふーん。


「なんだよ、ニヤニヤして」

「なんでもない!」

あたしと遅くまで長電話したいから飲んでるなんて聞いたらニヤニヤだってしたくなっちゃうじゃん。


言わないけど、言えないけど。


穂月ん家のキッチンは個室で、だけどスペース的には広いからテーブルも置いてある。
たぶん光をなるべく遮りたくて窓の少ない作りになってるんだと思う。魔女も大変だな。

レースのテーブルクロスの上にカップを置いて、向き合うように座った。

「あ、そうだ!あたしね、昨日新記録だったんだって」

「すごいな、ぶっちぎりの優勝だと思ってたけど記録も出してたのか」

「うん!昨日はめーっちゃくちゃ調子よかったから!」

これがあたしの最後の大会の結果、満足しかない結果が残せてずーっと機嫌がいい。 

「大原先生もびっくりしてたよ!」

「だろうな、あんだけ2位と差ついてたら」

「あ、じゃなくて!」

ふふって笑って、ピシッと揃えた左手を口元に添えた。

「あの怪我どーしたんだ~!?って」

「あぁー」

「反応薄っ」

あれだけパンパンに腫れていた足を見てる大原先生からしたら超ありえないことが起きていて驚く通り越して大声で叫んでたもんね。歩くどころか走れるぐらいに回復してたもん。

「だから教えてあげたんだ、魔女が治してくれたの♡って」

「……。」

「そしたらなんだそれって言ってた!」

「そりゃそうだろ」

すぅーっと穂月がコーヒーを飲む。
苦いのは好きじゃないのに顔色一つ変えないで。