「だから守りたかったんだよ」

満月おばぁちゃんがふっと笑ってあたしの目を真っ直ぐ見た。

「悪魔と契約なんてしてないさ、それは何にでも果敢(かかん)に立ち向かう魔女を恐れてそう言われたんだよ」

微笑んで、ねっと握っていた手をぽんっとした。

おばぁちゃんの手はあったかい。 
白くてキレイな手は凛として。

「だから今はひっそり暮らしてるんだ」

怖いなんて誰が言ったのかな?こんなに優しくてあったかいのに。

「でもそれも楽しいんだよ、なんでも好きなことが出来るんだから」

胸がきゅぅーって熱くなる。

なぜだか泣きそうになっちゃった。

満月おばぁちゃんはいつでも頼りになるから。

あたしにも、あたし以外にも。

「おばぁちゃんは全然ひっそりしてないけどね」

「これは性格だねぇ、お節介したい性分なんだよ」

はぁっと息を吐いた。


やっぱり困ってる人を放っておけないからね、魔女は。

あたしはそんな魔女が大好きだから。


「だからおばぁちゃんは忙しいんだよ。二丁目の佐藤さんは腰痛持ちだし、五丁目の鈴木さんはもうすぐ孫が生まれるって言うし、三丁目の加藤さん家のタマにも呼ばれてるし、駅前の田中さんは…えっと何だっけな?」

「おばぁちゃんいろんなこと引き受け過ぎだよ、タマと何するの?頼られ過すぎ!」

「そう、おばぁちゃんいっぱい頼られるから!」

パッと目を開いたおばあちゃんがぎゅっとあたしの手をもう一度握った。

「だから…緋呂のことは後回しになっちゃうかもしれないなぁ」

「え!?いつでも守ってくれるって言ったじゃん!?」

ゆっくりあたしから手を離した。微笑みながら。

「緋呂には緋呂を守ってくれる魔女がいるから」