「昨日満月おばぁちゃんにもらったハーブティーすっごくおいしかったの!あれなんてやつなんだろ、穂月知ってる?」

「さぁ、ばーちゃんが作るやつはばーちゃんにしか作れないから」

「魔女のハーブティーは簡単には作れないか…!」

下駄箱でスニーカーから上履きに替えて教室まで、中学3年生の教室は3年生ってだけあって3階にある。今のはつまんなかったけど階段を上るのは足腰鍛えられるし私的には結構好きだったりするんだ。

「3階まで長…っ」

「穂月まだ2階だよ、3年生になってもう2ヶ月経つんだからいい加減慣れなよ」

あくまで私的には。

ザ・運動不足の穂月にはきついらしい。
部活やってないもんね、穂月。やっと教室に着く頃にははぁはぁ息切れしてるんだもん。

「こんちゃーんおはよ!」

「緋呂おはよ、十六夜くんもおはよう」

「…おはよう」

同じクラスのこんちゃんはくせ毛が悩みらしいんだけど、2つに結ぶとふわふわして可愛いからあたしは羨ましいと思ってる。とりあえず部活やるからボブヘアーぐらいにしとくかーって感じのあたしとは大違いでちゃんとしてるし。

「今日は十六夜くんと一緒だったんだね」

「うん、玄関で会っただけだけどね」

あたしとこんちゃんの隣をササ―っと通り過ぎて誰より早く自分の席についてリュックを下ろす、周りを見向きもしないで教科書を机にしまい始めるから…

「十六夜くん怒ってる?私なんか変なこと言っちゃったかな!?」

「ううん、あれが普通だからこんちゃんのせいじゃないよ」

穂月はちょっとだけここに馴染めていない、と思う。

みんなが夏服に変わる頃、穂月だけは変わらず長袖で外を歩けないからこんな天気のいい日は送り迎えがいる。今日も月華ママに車で送って来てもらって、ちょうどあたしとそこで会っただけ。

「十六夜くん暑くないのかなぁ、今日朝から暑いよね」

「うん、暑いけどしょーがないから」

あたしは穂月とちっちゃい時から一緒だからわかってるけど、きっと知らない人は…あんまりよく思わないのかなぁ。

「大変だね、十六夜くん肌白いから肌弱いんだろうね」

「人よりちょっとだけね」

「キレイな肌してるもんね」

それは確かに!
穂月の透き通る白い肌が焼けちゃうのはもったいない。そしたらあの長袖も意味あるかもしれない、なんてね。