魔女は人の心を持っていた。


だから何が起きても守りたかったんだ。

つらいこともかなしいことも全部背負って全部を受け入れて、そうやって生きて来たんだ。


自分が、どれだけ傷付いても。


太陽の下を歩けないのは罰じゃないよ、そうやってみんなを見てるんだよ。

病気の人もケガをしてる人も太陽の下にはいないから、そばにいられるようにすぐ気付いてあげられるようにみんなを見守ってくれてるの。


きっとそれは最後まで残したかった魔女の優しさだと思う。


「緋呂、そろそろチャイム鳴るけど」  

「穂月…」

「ん、早く教室行けよ」

でも誰も穂月のことは気付いてあげられなくて。


みんながグラウンドを走ってる時どう思ってた?傷付いてた?

あたしは全然わかってなかったよね。


「穂月は太陽の下を走りたいと思ってる?」

「なんだよ急に」

「え…いや、なんとなく!」

「…さぁな、そんなこと考えたこともないし」

窓の外へ視線を変えた。日差しが眩しくてここからでも目を細めたくなるようなまばゆさだった。

「太陽がどんなものかもわからないから」

遠くを見つめるように外を見て。頬杖をついて顔を傾ける。


今穂月の瞳に映ってるものってなんだろう? 


穂月の叶えられない夢がそこにあるのかな。

保健室(ここ)にずっといるのはしんどいよね。

でもグラウンド(あそこ)はもっとしんどかったかな。

「穂月」

「ん?」

「絶対見ててね」

「ここからだと見えなんだって言ってるだろ」
 
でもやっぱり穂月にもいてほしいよ。

「あたしだけを応援してよ、あたし穂月のために走るから…!」