ガタッと穂月が立ち上がった。

みんなが穂月に注目する。


でも俯いたままだった。


「十六夜くん…」

「すみません…保健室行ってきます」

「うん、…気を付けてね」

穂月の席は窓際の後ろから2番目、教室の後ろを通ってドアの方へ。

「逃げんのかよ!」

廊下に出るには避けたくても大村の後ろを通らなきゃいけなくて。

「だから魔女は嫌われて処刑されたんだろ!太陽がダメだって言ってんのもバチが当たってんだよ!」

「大村くんっ!」

中野先生の声も掻き消されるように教室はさらにざわついた。


え、なに…

どうゆうこと…?


災害とか処刑とか不穏な言葉ばかりでドクンと胸を突いてくる。

「穂月…!」

教室から出て行く瞬間、名前を呼んだ。

でも見てはくれなかった。

もっとあたしが何か言うべきだったかもしれない。


何か言ってあげたらー…


でも何も浮かばなかった。

だってあたしの知ってる魔女はそんなんじゃない。


困ってる人を放っておけない、そんな心優しい人。


“降らそうか、雨”

“さすが魔女!そんなことできるんだ!?“

” 出来るわけないだろ、魔女にそんな力ないんだよ”


そんな人だよ。

「…先生!頭が痛いんで保健室行ってきます!!」

「朝見さんっ、頭が痛い人はそんな走れませんよ!?」

追いかけるように教室を飛び出た。

廊下を抜けてまっすぐ、保健室までの道のりを辿って。


何も言えなかったけど、何を言ったらいいのかわからなかったけど…


穂月はそんなことする人じゃない。

これだけは絶対わかってる。


それはあたしが1番知ってる。