勤めているのは、ニューヨークのマンハッタンが本拠地のアメリカ資本の大手商社だ。
日本人だから日本語が話せることもあり、取引の多い日系企業の担当部署、二十五でチーフという異例の出世をとげているわたし。

明日から、仕事は少しだけやりにくいものになるかもしれない。
でも大丈夫。

こんなことは、本当になんでもないことだ、と強く拳を握りしめてみる。
人の目も、わたしの心にぽっかり穴が開いてしまったような傷も、時が風化してくれるのを待てばいいばかりだ。

でも、今日だけは少し悲しんでもいいかな。
古い教会の窓枠から、夕陽に色を変えているひなびた裏庭が見える。

無骨に土がむき出しになっていて、そこに何本かの木が植えてあった。
葉と葉の間から美しい、まるで宝石のような赤い光が漏れていた。