たった数日だけどカレンが、ただプライドの高いだけの女性じゃないということはわかっていた。
プライドに見合った仕事は的確にこなしているし、部下や新人に意地悪でもない。

そう、プライド以前に彼女は、好きな男性が他の女性と結婚するのなら、自分の想いは胸の中にしまい込むに違いない。
(みずか)らの気持ちにケリをつけるための告白を、そんなタイミングでして、幸せいっぱいの恋人同士を暗い気持ちにさせるなんて考えられない。

カレンに、最初にあのオフィス街で会った時のことを思い出す。
まだ上司でも部下でもなかった時だ。
あの時、困っている東洋人を誰もが路傍の石のように見向きもせず、足早に通り過ぎていった。

朝の出勤時刻で誰も他人のこと、しかも言葉も通じるかどうかわからない東洋人のことなど、かまってはいられなかった。
それはわかる。
そんな中、同じ日本人が困っている、と同朋意識が働いたのかもしれないけれど、カレンは立ち止まってくれた。