わたしはそれからまっすぐ控え室に向かった。

なんだかやけに廊下が長く感じた。
目の前にある窓の大きなビジネスホテルから反射する光が、教会の草木の合間をぬい、鋭い矢のように網膜を焼く。

緑がとても多い閑静な住宅街の中にある大きな教会の真ん前に、あのホテルがあるのは結婚式の招待客を見込んでのことだろう。
実際、遠くから来訪した招待客はみんなあそこを利用している。

でも……何もあんなに窓を大きくとらなくても……とそこからの眩しい光に、頭痛を覚えて目頭を抑えた。

そしてやっと、やっと教会の新婦控え室に戻るなりわたしは、椅子にくず折れるように倒れる。

ここは世界一自由な都市、ニューヨーク。
誰もが自由であることを謳歌している。

でも時には、鋭く光る硝子の破片のように尖った街に替わるニューヨーク。
誰を傷つけても自由であることが優先されるのだろうか。

そう、ヤツの心がもうわたしにないことは、残念なことに明白だった。
言ってみれは、ヤツは自由の権利を行使しただけなのだろう。


大丈夫、今までだってたくさんのものを失ってきた。
でもわたしはまだまだ持っている。

心配して控え室まで来てくれた両親と妹に、たいしたことじゃないと、笑顔を見せる。