わたしは片手に書類、反対の手にスクリーン用のポインターを持っていて、それを置いてまで、公衆の面前でボタンを外す、などという行為ができなかった。

そして、プレゼンに集中するあまり、そのことをすっかり忘れてしまった。
気がついたのはグラマシーの家に戻って、ママとキッチンで顔を合わせた時。

無性に喉がかわいて、脱いだコートを食卓用の椅子にひっかけたまま、わたしは冷蔵庫に首をつっこむ勢いで飲み物をあさっていた。
ドリンクを片手に向き直ったわたしに、ママはパッと笑顔を咲かせた。

「あら、カレン、まぁ!! そのほうがずっときちっとしてみえるわよ」
その一言で、自分の胸元がどうなっているのかを思い出したのだ。
もう頭にきた! 
これがあれから三度目。

この一週間で、なんとセイジは三度も、わたしがどうにもならない状態の時に胸元のボタンを留めるという早業をやってのけたのだ。