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セイジの早業には舌を巻く。

次の日から、とにかくセイジにぶつかられないようにしなくちゃ! と思うのに。

そりゃ、なかなか彼にもそんなチャンスはないんだろうけど、何度か、気がついたらボタンが留まっていたというありえない事象が、実際あるのだ。
相当にわたしが他のことに気を取られている時を狙っているんだろう。

一度は、確実に一緒にやったプレゼンの最中だ。
わたしが、隣の人の表情もはっきり見えない暗がりの中、発光する大型スクリーンの前で説明していた時だと思う。

隣で補佐をしていたセイジは、ペンをわたしの足元に落とし、そして拾った。
かがむときと、背を起こすとき、たぶん一つずつ留めたんだ。

わたしは商機を逃すまいと必死で喋っていた。
ちらっと『これ、おそらく絶好の機会になってしまっている』という考えが浮かばないわけじゃなかった。

でもそんなことを確かめている場合であるわけはない。
説明が一段落したところで、ちらりと確認してみれば、案の定きっちりボタンは二つ留まっていた。