「東京からニューヨークに赴任になった前日にさ、俺、古い教会の木立の中で踊る妖精を見たんだよね。ふわふわした真っ白のドレスで街灯ひとつの闇の中踊ってた。俺の泊まったホテルのすぐ下の教会でさ。あの時は、飛行機トラブルで機内缶詰状態でぜんぜん寝られなかったんだ。寝ぼけて夢でもみてるのかと思ってたんだよ。長い間。だってめちゃくちゃ現実離れしてるだろ?」


あんまりびっくりして、わたしはそのトゥシューズを、穴があくほど凝視した。


「カレンがニューヨークから出て行ってから、なんだか無性に気になるようになって、あの教会に聞きに行ったんだ。ここでバレエを踊ってる人を見たんですが、って」


「そ、そしたら?」