だけど俺が実際に殴ってしまったのは、悠馬じゃなく、彼を庇って体当たりをしてきた朝希ちゃんのほうだった。


幸いなのかどうなのか、彼女は両腕で顔を庇いながら体当たりをしてきたから、実際に俺の拳は肩のあたりをかすった。


だけど勢いだけは充分についていて、朝希ちゃんは吹き飛ばされアスファルトに膝を強く打ちつけた。


そのまま救急車で病院に運ばれ、半月板の損傷で手術を受けることになった。


そして、悠馬共々かなりの短距離選手だった彼女は、陸上ができなくなってしまったのだ。


普段の生活に支障はなく、後遺症もたぶんないけれど、歳をとってくると痛みがでる可能性もゼロじゃないという大怪我だ。


朝希ちゃんは自分で勝手にとった行動だと、俺を恨むこともなく、悠馬を恨むこともなかった。


でも俺は、俺がメチャクチャにしてしまった彼女の人生、彼女自身を放っておくことができなかった。


手術費用はもちろん、その後の彼女の動向からも目が離せなかった。