「わたしが赴任してから返してね。決心が鈍るのは困るから」


「カレン、逃げても追って来る運命からはきっと逃げられないよ?」


「もし、本当に運命ならね」


でも、落とした靴ーーわたしの場合はティアラだったけどーーを拾った王子は、本物の王子じゃなかったのよ。


わたしにはきっと本物の王子はいないのかもしれないな。


そこで自嘲的な笑みが口の端に上り、わたしは背筋を伸ばして上を向いた。


王子様が落とした靴を持って迎えにきたのは御伽話の中だけよ。


わたしには現実的な問題が目の前に迫っていて、その突破口が奇跡的に開けたのだ。


甘ったれてこのチャンスを逃している場合じゃない。