「え?」


「あの時は舞い上がっていたから頭も回らなかったがね。いや、どう考えてもおかしいじゃないか。君が突然、自分を売って契約取ろうとするなんて」


「……」


「どうしても会社での評価が欲しかった。今までとは何か違う、やむにやまれぬ事情ができたということだ。大切な誰かを守るために金が必要だと、君なら考えそうだと思った」


「……さすが……」


思わず声が漏れてしまった。

ソン・ホールディングスをここまで引っ張ってきた男だけのことはある。


「カレンさん、君のパイロットだったお父様のこの度の不運。まだローンがかなり残っているグラマシーの邸宅。それからニューヨーク大学に通う妹さんのこと」


「…………」


「うちの社にこないかカレンさん。金がいるんだろ?」


「え?」


「下心なんかもうないよ。君はどんなに贅沢させてあげる、と言っても家庭に、ましてや好きでもない男の懐に落ち着く人じゃない」


「カレン……」


黙って聞いていたジェシーが心配そうにわたしの袖をひく。


「大丈夫よジェシー。話は最後まで聞くわ」