一部始終を見ていた招待客もわたしも、この現実離れした事態についていけず、誰一人動くことはしなかった。
水を打ったように静まり返る新郎の消えた教会。
取り残された花嫁。

本当に映画のワンシーンを見ているように、全く現実味がなかった。
わたしはどのくらいバカづらを下げて神父様の前に一人でつったっていたのだろう。


これでは休日の今日、わざわざここに足を運んでくださった方々が困ってしまうじゃない。
過ちを謝罪するのは早いほうがいいなんて、こんな時でも算段が働いてしまうのは、悲しいキャリアウーマンの(さが)だな。

わたしは祭壇の前に置いてあったマイクを取り上げた。
大きい教会だったから、マイクなどというものが用意されていたのだ。

「皆様、本日はご足労いただきましたのに、本当に申し訳ありませんでした。ごらんのとおり、サンダースと、わたくし花連 真崎(かれんまさき)の結婚は白紙に戻りました。どうかお気をつけてお帰りくださいませ」


わたしは、せめてこれ以上みじめに見えないように、長いお辞儀から起こした頭をあげてせいいっぱい胸を張った。
それからマイクを祭壇の上に静かに置き、控え室に戻るために招待客に背を向け歩き出す。

ふと、足を止め振り返る。
さっき置いたマイクをもう一度取り上げる。


「みなさん、ご心配には及ばないわ。見たでしょ? 結婚式当日にあんなことやってのけるバカ男。結婚しなくて正解だったと思わない?」