「それはもちろん。行かなかったらセイジに殺されかねないわよ」


わたしは窓から、黒塗りの社用車が向かった副社長のいる病院のほうに視線を走らせた。


さようならセイジ。


極上のエスプレッソを使ったドルチェのような、甘くて柔らかくて、苦い苦い後味を残す恋。


でも実は、その一瞬の甘さが、ずっと後を引き続けるようなタチの悪い恋。


優秀で精悍な頼れる部下。


たぶんそう遠くない将来には、上司になる人。


二日だけつき合った人。


わたしに夢と希望と、とろけるような甘い嘘をくれた人。


黒塗りの車がとても似合っているわ。


あなたはイクチオステガ。


遠くまで行くべき人なのよ。