マンハッタンの夕暮れは、紺に明るい紫を足したような不思議な色でできている。


地下鉄を降り、俺のアパートに手を繋いで帰る帰り道、まだカレンは熱に浮かされたように喋っていた。


彼女は酒が入ると饒舌になる。


「セイジは、どこか、行きたいところがあったの?」


「……遠くに、行きたかったかな。どうしてか小さい頃から俺は遠くに行きたかった。別に日本が嫌だとか、何かから逃げたいとかじゃないんだけど、無性にどこか遠くに行きたいと思うことがあった。見たことがないものを見てみたいって気持ちが強い」


カレンに会うためだったのかな、と、本当にそう思うよ。


だいたいこんな話は、いままでつき合ってきた女性には、誰にもしたことがなかった。