こみ上げる涙を飲み下し、肺に新しい空気をたくさん入れる。

「よし!」

わたしはモトムラのほうにゆっくりと歩きだした。
五感が麻痺している。
今の自分を、もう一人の自分が俯瞰しているような現実離れした感覚が、ずっとつきまとっている。

「大変失礼いたしました。元村専務。何か彼は勘違いをしたようです。今日は、ごく、プライベートなお食事でしたよね?」

席につき、グラスの水をほぼ一気に飲み干した。
喉がかわいて仕方がなかった。

「カレンさん……」
「でも、察していただけますわよね? わたしがこうすることに、どれほどの勇気がいるかということを」
「そ、それはもちろん、です」