「専務、そ……そろそろ契約のお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

どんな下衆な条件を持ち出されるのかと思うと、心臓が苦しいくらいに収縮する。

「もちろん、あなただってこうやって僕の申し出を受けて一人で契約に来たことの意味は、わかっているんでしょうな?」

「……飲める条件と飲めない条件があります」

愛人契約なんてさすがにまっぴらだ。
どんなにがんばっても一度――。
ああ。考えただけで鳥肌が立つ。

でもわたしの肩に、住宅ローンもパパの医療費もセイジの出世もかかっている。
テーブルのナフキンの上に置かれたわたしの手の上に、薄く老人斑の散ったモトムラのそれが重なった。

「こんな若くて美しい。しかも優秀な人を独占しようとは思いませんよ。冥土の土産に、……一度でいい。それで$10000000の契約をしますよ」

一度……。それくらいの覚悟はしてきたはずなのに、鳥肌どころか涙が出てくる。
わたしは、とにかく落ち着こうと何度も深呼吸を繰り返した。