「それじゃ、がんばってね」


今、教えなくてもすぐにわかるわ。
わたしは大勢のビジネスマンにまぎれて、先にエレベターに乗り込んだ。

後方から感じる視線は不愉快なものではなかった。


……使えるのかしらあの男。


◇◇◇

「今日から、第二営業部で働いてもらうセイジ・マミヤ。東京支社からの赴任だ。カレン、君の新しいチームメイトだよ。マミヤ、カレンは君たち四人のチームのチーフだ」

わたしのボスのジャックが、マミヤとの間に入って簡単な紹介をした。
「よろしくね、Mrマミヤ。わたしはカレン・マサキ、こっちで育ってはいるけど生粋の日本人なの」

あっけにとられているマミヤに、わたしはそっと右手を差し出した。
まだ大きく目を見開いたままの彼と握手をする。
やけに硬い手だった。

「朝の、親切な方!」

「またお会いできたわね、カレンって呼んでもらってかまわないわ。花連、日本語の名前よ。花が連なるって書くの。ずっとこっちの生活だから、両親が日本でもアメリカでも通用する名前として、カレンってつけたのよ」