「ここか、あと少し歩けば簡単に見つかったんですね。大きいなぁ」

わたしとのさっきのあまり愉快とは言えないやりとりを、彼は意に介していないようだった。
なんだか拍子抜けする男だな。

結婚しているのかしら。
指輪はしていない。

こういうタイプの男は、絶対に結婚したら指輪をするような気がする。
高身長にすっきりと整った顔立ち、ここでは目立つ黒い髪は、エキゾチックで魅力があると言えなくもない。

いい男の指輪の有無を、抜け目なく確認できるくらいには、わたしはまだ余裕があるというわけね。
「ここの十階のフロアに総合の受付があるわ。そこに行くといいわよ」
「とても助かりました。あの、よかったらあなたのお名前……」

彼はまだ何かを言い続けていたけれど、わたしは背をむけ、ひらりと肩越しに右手を上げた。