「カレン」

カレンをひっぱりあげるようにして抱きしめ、その首筋に顔を埋める俺のかすれた声は、自分でも聞いたことのない響きを持っていた。
消えそうなほど儚くて、壊れそうなほど脆弱で、この世に二つとない尊い存在。
大事な、女。

折れるほど抱きしめたいという気持ちを、すんでのところで押し留める。
今は、今は、『いい人』の枠から抜けるな。
今は、下心なんか見せてカレンをもっと傷つけるようなマネなんかできない。

今だけは絶対にダメだ。

計算どうりに行動しろ! と頭が指令を出すのに、こうやってこんなにきつく、カレンの拒絶も受け入れないで抱きしめているところがもうすでに計算外だった。