優しくしないで。
今優しくされたら、あなたが部下ではなくなってしまいそうで怖い。
お願いだから今だけは優しくしないで。

拘束する手は熱くどこまでも優しいのに、力が強すぎてその(いまし)めを解くことができない。
泣けば離してくれるの?
そんなこと今なら簡単だ。
我慢するのをやめればいい。

でも、この腕のぬくもりがあまりに心地がよくて、忘れていた何かを呼び覚ます。
離れたくない。

パパが大変だというのに自分を甘やかすことを考えるなんていけない娘かな。
でもあとほんの少し、ほんの少しだけ、泣くのをこらえてみようか……。


「いい人すぎるのは誤解を招くのよ? 知らないわけじゃないでしょうに」

ダメだ。涙声になってしまう。