人のぬくもりがした。
温度を感じた。
温かい、ということを感じる感覚がまだわたしにも残っていたんだ。

いままでずっとどこかで我慢ができていた、少なくとも人前ではこらえることができていた涙がこみ上げるのがわかる。
でも、部下の前でなんか泣けない。
セイジから離れようと思うのに、彼の片手はわたしの手首を握って自分の胸にひきよせ、反対の手はわたしの髪を繰り返しなでている。

ゆっくりゆっくりなでている。
わたしの頭の形を確かめるような丁寧で優しい手つきだった。
手首を握られて引き寄せられているだけ。

別に背中をホールドされているわけじゃない。
距離を取ろうと思えばできないわけじゃなかった。

でも、身体が、脳の出す指令に上手く反応してくれない。