「それだけ?」

セイジはわたしの質問には答えず、ワインの瓶を持って、わたしのグラス、それから自分のグラスにそそぐ。

「できる? 三十二回ピルエット」

三十二回ピルエット……。

ジョージと結婚するはずだったあの教会の裏庭で、わたしはその三十二回ピルエットの最後に、靴とは違うものを落とした。
あれから、あの時落とし物を拾ってくれたあの人を、わたしは王子様だと思うことに決めた。

そりゃ靴じゃないところは童話とは違うけれど。
結婚が破談になったその場所で、わたしの運命を拾う人にわたしは出会ったのだと、一応すれ違ったのだと、生涯思い続けようとしていた。

男はこりごりだけれど、それくらいの夢がなければこの先の人生を渡っていくのだってわびしすぎる。
もちろん、いるわけない。