体育館へ着いた時には、すでにギャラリーがたくさんいた。三年と二年の女子で入り口が埋めつくされて、肝心なバスケの様子はなにも見えない。

 背伸びをしても、この人だかりでは意味がない。もう少し背が高ければ良かったのに。

 もう一度つま先を上げたとき、前のおしりにバフンと飛ばされた。

 イタタ……わたしが尻もちをついたことさえ、その人は気付いていないみたい。

「リリちゃん、大丈夫ですか? あの、倒れてしまったのですが。謝ってもらえませんか?」

 となりにいたトーコちゃんが起こしてくれる。注意の声もみんなの騒がしい音でかき消されて、今度は違う子に邪魔だと言う目で見られた。なんだか怖い。

「トーコちゃん、もういいよ。帰ろう」

 制服のそでをくいっと引っ張った時、とつぜん女子たちの黄色い声がわき上がった。

 人ごみの奥から、サラサラしたアイ色の髪が見えて、みんなが両脇に寄って道を開けていく。
 ボールを持った夜宮先輩がわたしの前へ来て、足を止めた。


「会いに来てくれたんだね、リリア」

 どくん、どくんと心臓が速くなる。

「……どうして? わたし、まだ何も」

 名乗ってもいないのに、夜宮先輩がわたしの名前を呼んだ。

 初恋の人と重なって、胸が熱くなる。
 まだ夢をみてるみたい。