またいつ王河さんが狙って来るかわからない。先輩はそう言って、わたしの手をそっと取る。
 そのままチュッとキスを落とすと、手からキラキラと何か浮かび上がってきた。

 なんだろう、これ?
 スモークはハートの形を作って、わたしたちの上で止まっている。
 ふいに抱きしめられて、動けなくなった。
 心の準備が……まだ!

「まずは、あの約束から。覚えてくれてる?」
「……あっ、それは」

 昨日、言われたもう片方を思い出して、さらにドキドキが加速した。

『僕のことも、名前で呼んでよ』

 わたしが王河さんって口にしたから、夜宮先輩が嫉妬したみたいなの。
 ものほしそうな顔で、ちょっぴり甘い目で見てくる。

「ほら、紅羽って呼んでみて」
「……くれは……せんぱい」

 まともに目を見れないまま、すっぽりと腕の中におさまった。心臓の音が聞こえてしまいそう。

 これから、なにが待ち受けているのか想像もつかないけど。このトキメキはくすぐったくて、心地いい。
 みんなも紅羽先輩のことも、ペンダントもぜんぶ守ってみせるから。誰か、今は恋のミッションをクリアする力を貸してください!

 そっと体が離れて、見つめ合う。

「リリア、ここに口づけして」

 示されたのは、さっきのスモークのハート。そうしたら、おまじないは完了する。
 緊張しながら、顔を近づけた。そのとき、ポツンと冷たい物が降ってきた。

「……雨が」

 見上げると、小粒の雨がパラパラとしている。そのせいで、ハートは消えてしまった。
 あたりは薄暗くなって、まるで夕方みたい。

「なんだか不吉な空だ。契約……まじないの続きは、もう少し先になりそうだね。リリア、飛べる?」
「え、飛ぶって……?」