朝日が顔を出し始めるころ。家のベランダへ降りると、こっそり鍵を開けて部屋のベッドへもぐり込む。
 プイプイの魔法のおかげで、気づかれずに帰れてよかった。

 何事もなかったように、朝起きて行くと、エプロン姿のお母さんがにっこにこのスマイルで立っていた。

「リリア、昨日はレオくんの家に泊まったんですって?」
「え?」
「となりなのに、ほんとに仲がいいわね。もっしかして、付き合ってるの?」

 どうなのよ〜と、後ろから抱きついてくる。

 好きな人ができたって報告したら、お母さんは喜んでくれるのかな。
 悪魔だと知ったら、反対するかな。わたしに関係なく、封印しちゃうのかな。

 夜宮先輩は、他の悪魔たちとは違う。
 いつか、みんなに分かってもらえるといいな。

「レオのことは大事だけど、ただの幼なじみ! でも、好きな人はいる」

 急に真面目になったから、お母さんはきょとんとしていたけど、そっかと優しく返してくれた。

 ドドドとものすごい音が近づいてきて、いきおいよくリビングのドアが開く。

「な、なんだって? 今、リリアの声で、好きな人がどうって」

 青ざめた顔のお父さんが、寝ぐせ頭のまま飛び起きてきたらしい。

「あなた、焦りすぎよ。リリアだって、もう中学生なのよ。好きな子ができたって不思議じゃないでしょう」
「そうだけど、お父さんは寂しいぞ。まだお嫁には行かないでくれ」
「やあね、何年先の話してるの。さあ、二人とも朝ごはんにしましょう」

 ハムエッグとピーナッツサラダを並べながら、お母さんがあきれ笑いを浮かべる。

 わたしは、二人の笑顔を守りたい。
 いつか、みんなが幸せになる未来が訪れるように、頑張ってみせる。

 今はまだ言えそうにないけど、必ず話すから待ってて。